日本陸海軍戦史研究室

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戦史研究室日誌 2023年12月5日 海軍と陸軍が交わした電文内容にみる文章表現の違い~高松宮日記より~

 本日は、海軍と陸軍の交わした電文の一例を取り上げて、それぞれの文章表現の違いを比較してみようと思います。

 

 高松宮日記昭和17年4月9日の記述に、南方作戦が一段落をし海軍の第二艦隊がその任を離れ南西方面艦隊に引き継ぐことになり、ともに南方作戦に従事した陸軍の南方軍に対し、離任の挨拶と協同作戦の御礼の電報を発し、対する陸軍南方軍もそれに返電した電文が記述されている。この2つの電文を見ると、海軍と陸軍の違いの一端が垣間見ることができる。

 

〇第二艦隊長官(八ー一三五〇)宛南方軍総司令官

 四月十日附、海軍南方作戦部隊ノ指揮ヲ南西方面艦隊司令長官ニ引継グコトトナ 

 レリ。作戦開始以来貴軍ノ熱誠ナル御協力ニ依リ陸海軍緊密ナル連繋ノ下、克ク

 南方作戦ノ円滑ナル進展ヲ見タルヲ慶賀スルト共ニ更メテ深甚ナル謝意ヲ表ス。

 南方作戦海域ヲ去ルニ臨ミ、閣下始メ各位ノ御清武ヲ祈ル。

 

 第二艦隊長官は海軍中将近藤信竹で、南方軍総司令官は陸軍大将寺内寿一、海軍中将南西方面艦隊司令長官は高橋伊望である。この近藤第二艦隊長官からの電文に対し、寺内南方軍総司令官は以下のものを返電している。

南方軍総司令官(七ー二一三〇)宛第二艦隊長官

 客年晩秋開戦準備着手以来貴艦隊トハ水魚一体トナリ深謀?ヲ密ニ全力ヲ搏テ協同

 交戦ニ従ヒ、御稜威ノ下三閲月ニシテ予定ノ南方要域主要協同作戦ヲ策セルハ衷心

 感謝ト感激トニ堪ヘザル所ナリ。今次貴方ノ編成替ヘニ伴ヒ貴艦隊トハ暫ク直接提

 携ノ袂ヲ分ツト雖モ南方軍ハ南方々面充当艦隊ト今日迄ノ美事ナル協同精神ヲ愈々

 拡充シ陸海協心勠力以テ終局ノ作戦目的完遂ニ邁進センコトヲキシ、茲ニ貴艦隊ニ

 対シ深厚ナル謝意ヲ表スルト共ニ更ニ大洋ヲ徹底制把シ遂ニ敵ヲシテ屈伏ニ至ラシ

 メンコトヲ切願シテ止マズ。

 

 これを見ると、海軍は短く端的に文章を作成しているのに対し、陸軍は文章に美辞麗句を用いて、いささかくどいように感じる。こういったところにも、海軍と陸軍の違いが分かって、面白いと思う。